アドベンチャーサポート 根岸尚宗さんに聞く伊豆市の魅力 自然に、水に、近い生活とは
伊豆市の豊かな自然のなかで事業活動するみなさんに【アクティビティ】【文化】【自然】 の観点から、その魅力を伺いご紹介してまいります。
第四回のインタビューは アドベンチャーサポートの根岸さんにお話をお伺いしました。
キャニオニング、ラフティング、パックラフト。耳馴染みが薄いかもしれませんが、どれもが伊豆の自然や地形を生かしたアウトドアコンテンツ。
それらのコース開発から自らもガイドとしても活躍するアドベンチャーサポートの根岸さんに伊豆の魅力をたっぷりと話していただきました。
もしかしたら、誰よりも伊豆の自然や水と直結したビジネスを営んでいる方かもしれません。
10年来の付き合いで、根岸さんの運営するコンテンツも撮影している武智がインタビューさせていただきました。
伊豆市の川で、山で、アウトドアガイドとして活躍する根岸さん。
Q:まずは根岸さんの生い立ちから、アウトドア好きになるまでを教えてくださいますか?横浜生まれというのは知ってますよ。
そうです。生まれは神奈川県横浜市で、大学まで横浜市内で過ごしました。
中学の頃に読んだ山岳小説に憧れて、高校に時に山岳会に入り、大学では冒険部に所属していました。
大学の冒険部時代にアフリカのマダガスカルに行った時のもの。集落にテントを張らせてもらい過ごしたそう。
Q:そうすると山歴はけっこう長いですね。卒業してからのキャリアとしては?
大学卒業後はしばらくフラフラしてから、アパレル系の営業職に就きました。一応そこで、3年ほど勤めたんですが、働きながらも趣味でクライミングをしたりしていました。
Q:ん?フラフラしていたというのも気になりますね?具体的には何を?
その時は1年半、割とがっつりアウトドアのインストラクターを目指して、そういう手伝いをさせてもらったりしていました。
目指していたのはアウトドアのリバーレスキュー。川のレスキューですね。レスキュー3というのがあって、そこでやっていました。消防とか、水防団とかにそういう技術を教えるようなプログラムです。でも、これでは食べていくのはなかなか難しいと思って、就職を試みました。
クライミングの聖地とも呼ばれるアメリカ、ヨセミテ国立公園。なんと、この断崖で宿泊したこともあるそう!!
Q:なるほどですね。で、そこからどうしてまたアウトドアの仕事に戻るというか、今のアウトドアガイドに行きついた理由を教えてもらえますか?
そうですね。
仕事は割としっかりやっていたんですが、その間にだんだんとクライミングに寄っていったというか、また、再開した感じなんです。最初は完全に趣味として。でも、本気でやりたいなと思うようになったきっかけは、一応ちょっとあって。
谷川岳をクライミング中に落雷にあったんですよ。直撃ではなく、吹っ飛んで、そんなに大した怪我はしていないんですけど、30メートルくらい滑落しました。
落ちている途中に『こうやって平等に死ぬんだな』って思いましたね。走馬灯のような感じがありました。
Q:落雷!?滑落!?よく生きてましたね。
二人で登っていたんですが、運が良いことに二人とも無事で。
怪我も打撲と擦り傷程度だったんですが、私の荷物はザックごと、携帯なんかも全部奈落の底でしたね。
Q:それこそ、レスキューのお世話にはならなかったんですか?
二人で、私は道具がないので、パートナーに借りたりはしましたが、自力で下山しました。
それがあって、もっとちゃんと、なんか、もっとちゃんとクライミングをアウトドアをやりたいって思ったんですよね。
Q:辞めたいと思ったわけではなく、ちゃんとやりたい。どうしてそう思ったか少し理解し難いところもあるけど、それからの話を教えてください。
それで、山岳会の先輩に紹介してもらって、アウトドアメーカーに転職して、そこで勤めながら、趣味でクライミングを続けていきました。その会社にも3年くらいいたんですが、途中で結婚したんです。
結婚して、妻の職場が静岡県だったので、三島に住み始めました。
そこから半年くらいは、新幹線通勤をしてました。
Q:根岸さんが新幹線通勤、意外ですね(笑)でも、その後、クライミングジムで働いてますよね?俺もその頃に出会ったと思うんだけど、独立するまでの経緯を教えてください。
三島に引っ越して、しばらくしてから東京の仕事は辞めて、沼津のクライミングジムで働いていたのですが、その時、奥さんや周りの人に「独立したら?」と、背中を押してもらって、独立した感じですね。
その頃から、キャニオニングをするには萬城の滝は良いコースだなという風には思っていて、その萬城の滝でノルディックガイドをしていた方から、伊豆市の地域活性NPOの飯倉さんという方を紹介してもらって。
伊豆市の萬城の滝周辺を主なフィールドにして実施されるキャニオニング。
自然相手のアクティビティ。安全に楽しむための講習や配慮も行き届います。
Q:それで、 ドットツリー※1に入るのね。ドットツリー入りを強く推したのは俺ですよ。とは言え、根岸さんよりも奥さんが『入っちゃえ!』なノリでしたよね。そこからは俺もある程度知ってるつもりなんですが、モニターツアーやキャニオニングコースのゴミ拾いボランティアツアーをやっていて、あれよあれよと仕事を確立させていった感じがします。
うーん。確立させたっていうよりは、当たった感じですかね。単に本当についてただけですね。平成26年に開業届を出して、そこから一年位は準備をしていたんですが、キャニオニングツアーを始めた1年目でそこそこお客さんが来てくれたんで、なんとかやっていけるかなぁという感じでした。
(※1ドットツリーとは、伊豆市修善寺の商業施設が立ち並ぶエリアにある未来型コンパクトタウンです。住まいとオフィスが一緒になっていることで、人々が交流する機会を増やし、新たなビジネスやアイデアが生まれるという独自のコミュニティが形成されています。)
日本では耳馴染みが薄いキャニオニングですが、ヨーロッパではメジャー。景観だけでなく、ガイドの実力で魅力も大きく変化するアクティビティ。
Q:そして、伊豆市に移住。拠点を伊豆市に移した理由って何かあったんですか?
伊豆市にはいい滝があったからですね。今キャニオニングをやっている萬城の滝とか。
伊豆市内だけじゃなく、たまに河津の二階滝(にかいだる)でもやったりしますよ。やっぱり、天城山系の滝は魅力的ですよね。
Q:伊豆市、まあ、伊豆全体としても良いですが、根岸さんが惹かれたのはどんなところですか?全国的に見れば、他にも良さそうなフィールドはありますよね?
伊豆は水がずっと流れているというのが大きいですよね。それこそ、わさびが育つようなきれいな水が。
生活の中にきれいな水が流れているのは世界的に見ても、なかなか珍しいと思いますよ。萬城の滝のあたり、伊豆市の地蔵堂周辺の景色は手付かずの景色があって、ガイドした外国の方も喜んでくれてますね。
Q:生活と水と言うと、三島や郡上八幡も良いけど、それともまた少し違う感じがありますよね。観光資源的にはもったいなくもあるけど、THE 水スポットみたいにしていないというか。
地元の人は自慢も特別に愛してもいない感じですよね。わさびの農家さんとかはまた別ですが、日常に綺麗な水がある感じがします。
その水のおかげで、キャニオニングもパックラフトもできますし、去年は観光協会と組んで、ボートに乗って天城湯ヶ島の紅葉を見るツアーもやりましたよ。
生活と水、だけじゃなく、自然との距離、あるいは水との距離も近いですよね。
Q:キャニオニングのフィールドもお子さんがやっているのを、お母さんたちは川縁を歩いて見学もできるとか。
そうですね。最近、トレランにハマっているんですが、玄関を出たら、すぐに山に入っていけることとか、本当に贅沢だと思いますよ。元々は走ったりするタイプではなかったんですが、ITJ※2 のボランティアをしてから、だんだんと走るようになりました。
私の仕事は夏が忙しくて、冬は時間があるので、ITJの千葉さんのところで救護の手伝いなどの仕事をしています。そんな感じで他のアウトドア事業者とも交流があるのも良いですね。
(※2 IZU TRAIL Journeyとは「新しい伊豆の旅の創造」をコンセプトに2013年よりスタートしたトレイルランニングの大会 代表の千葉達雄さんのインタビューはこちらから)
控えめで落ち着いた語り口の根岸さん。ITJの千葉さんとの出会いもドットツリーがきっかけ。
Q:仕事もアウトドア、趣味もアウトドア、伊豆最高って感じじゃないすか!ところで、ここらへんの景色でどこが好きですか?
城山は好きですね。見るのも、登るのも。
あとは、旭滝。
それと、日常の風景ですが、修善寺橋から見る狩野川も好きな景色ですね。
落差105メートルの旭滝。柱状節理の断面を流れる風景をすぐ近くの遊歩道からも臨めます。ジオ的な魅力もたっぷりで、まさに地球が作ったアート作品。
Q:それじゃあ、狩野川ラフト、城山のラペリング(※3)、どっちもおすすめですね。旭滝のキャニオニングは難しいでしょ?
うわぁ、旭滝!やってみたいですよね!下から見ても、ルートのイメージしちゃいますもんね。
地域の人も大切にしているし、キャニオニングやシャワークライミングは難しいとは思いますが。
見るだけでも十分楽しめますし、特に水量があるときは凄く迫力がありますね。
(※3 城山のラペリングとは伊豆の国市城山のほぼ垂直の岸壁100メートルをロープを使って、降りてくる伊豆のジオを活かしたアクティビティ。)
コースの途中で、コーヒーブレイクや、ジップラインなどのお楽しみも醍醐味のひとつ。もちろん安全性も最大限に配慮しています。
自然の地形を活かしたダイナミックなラペリング。草が枯れた秋以降のシーズンに受け付けています。1時間ほど登山をしてから、約3時間かけて降りてきます。
パックラフトとは一人乗りの折りたたみできる、つまりパックできるボート。狩野川からの城山はまた格別。通年で楽しめます。
Q:ところで現在、キャニオニングは、同時に何人くらい受け入れてますか?
15人ですね。そのくらいが滝からジャンプするときなんかも、待ち時間が長すぎず、ちょうど良いと思っています。
キャニオニングの名物、滝壺へのジャンプ。年間を通じて水量も豊富でなうえにワサビが育つほどキレイです。
Q:お客さんは、首都圏からの方が多いとは思うんだけど、首都圏から集客しやすいとかそういうのを考えて伊豆を選んだ感じですか?今までインタビューしてきた方でも、みんな首都圏からの距離感というのはメリットに挙げていて。
それだけの理由で住んだわけではないですね。
綿密にリサーチしてここだ!と決めたわけでもなく、最初からキャニオニングをしようと決めていたので、滝があるというのが大きな理由です。
お客さんからは、『意外と近かった』という風によく言われますよ。
Q:地域的に何か、ここに住んで良かったなとかあります?
行政的に言うと、医療費無償は大きいですね。
小さい頃、娘にアレルギーがあったので、すごく助かりました。
あとは、地域の子供会に入っていて、どんど焼きとか、お祭りとか伝統行事に参加できるのも、私が子供の頃にはどんど焼きなんて知らなかったので、大人になってから楽しさを知りましたね。
Q:再来年には娘さんも中学校ですよね?新しい中学校もすごく良さそうで、魅力的なんだけど、根岸さんみたいな人が部活動の外部講師として、入ったりしたら、めちゃ面白そうですね!
いいですね!競技や勝ち負けのスポーツではなく、自然を楽しむとか、上手に身体を使うとか、自分自身と向き合って挑戦するとか、そういうのがやれたら、楽しそうですね。
よし!じゃあ、伊豆市役所と教育委員会に言っておきましょう!!
Q:そう言えば 、根岸さんの娘さんが小さいときに、俺も一緒に虫取り連れてったりしたねぇ。ぶっちゃけ、田舎の煩わしさとかはありませんか?
草刈りとか水路掃除とかありますが、近所付き合いができるのは良いですね。知らないうちに野菜が玄関にかけてあって、後で『野菜置いといたよ』ってLINEが来たりとか。
田舎暮らしをしたい人には勧めたい場所ですね。でも、田舎に住んでいるという感覚もないんですよ。
修善寺でのここ横瀬地区 は買い物にも不便ではないし、駅にも近いので暮らしやすいですよ。
根岸さんオススメの風景のひとつは娘さんたちの通学路。修善寺のシンボルでもある赤い橋で肩車をする親子がいたら、根岸さんかも。
アドベンチャーサポート 根岸尚宗さん
キャニオニング・パックラフトなどのアクティビティの詳細・予約は下記よりご確認ください!
https://www.adventuresupport.net/
編集後記
元々、根岸さんの印象は無骨な山男ってよりも、ある意味、オシャレというかスタイリッシュというか、スマートなアウトドアな人って感じでした。
なので、アパレルで働いていたとか、サラリーマンをしていたというのも腑に落ちますね。
強い思いで一念発起して、ガイドになるぞっていうよりも、しっかりと一歩一歩進んでいったら、今日に繋がったという印象です。
子供がいるというのも地域に馴染みやすい要素かもしれませんが、なんていうか、けっこう特別なことをしているのに特別ではない感じというか、謙虚さが滲み出ているのが根岸さんの魅力ですね。
写真・文:武智一雄
伊豆市の隣の伊東市在住のフォトグラファーで海の環境保全を目的とする
一般社団法人サバーソニック&アジロックフェスティバルの提督(代表理事)。
伊豆市には親戚や友人も多く、幼少期から馴染みが深く、好きな場所でした。
また、修善寺を2拠点生活の拠点としていたので、伊豆の内側と外側の両方の視点からインタビューを目指しています。
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